幼い頃に誰もが口ずさんだ「ドはドーナツのド、レはレモンのレ」という親しみ深いフレーズ。しかし、不朽の名作ミュージカル映画『サウンド・オブ・ミュージック』で世界中に広まった原曲『Do-Re-Mi』の英語歌詞を紐解くと、「ド」はドーナツではなく「Doe(牝鹿)」であり、私たちが知る日本語版とは全く異なる世界が広がっています。
英語圏の子どもたちが音楽と発音を学ぶために作られた原曲には、英語ならではの高度な「同音異義語(Homophone)」の言葉遊びが張り巡らされています。本稿では、本家『サウンド・オブ・ミュージック』の英語歌詞とカタカナ発音、単語の意味、そしてペギー葉山氏による名訳が生まれた歴史的背景まで、徹底的に深掘りして解説します。
📌 【この記事の重要ポイントまとめ】
- 要点1:原曲の「Do」はドーナツではなく「Doe(牝鹿)」。「Re=Ray(光線)」「Mi=Me(私)」など、音階と同音の英単語を当てはめる言葉遊び(同音異義語)で構成されている。
- 要点2:日本語版の訳詞を手掛けたペギー葉山氏は、「牝鹿では日本の子どもに伝わらない」と苦心し、直訳を捨てて「子どもの身近な名詞の頭文字」に置き換える歴史的超訳を生み出した。
- 要点3:英語圏では音階の「シ」を「Si」ではなく「Ti(ティー)」と発音する。英語の音節(シラブル)とリズムを掴むことで、発音向上やフォニックス学習の優れた教材になる。
【徹底比較】ドレミの歌の英語歌詞・カタカナ発音・日本語訳の完全対訳一覧
まずは、英語原曲の歌詞、カタカナでの読み方・発音の目安、各単語の直訳、そして日本で定着しているペギー葉山版の歌詞を対照表で確認してみましょう。英語の各行がいかに緻密に設計されているかが一目でわかります。
| 音階 | 英語歌詞(原曲)とカタカナ発音 | 英語の意味・単語の仕掛け | ペギー葉山版(日本語歌詞) |
|---|---|---|---|
| Do(ド) | Doe, a deer, a female deer (ドウ ア ディァ ア フィーメイル ディァ) | Doe=牝鹿(メスジカ)。Doと同じ発音の単語を引用。 | ドは ドーナツの ド |
| Re(レ) | Ray, a drop of golden sun (レイ ア ドロップ オヴ ゴールデン サン) | Ray=光線・一筋の光。太陽の金色の光の粒。 | レは レモンの レ |
| Mi(ミ) | Me, a name I call myself (ミー ア ネイム アイ コール マイセルフ) | Me=私。自分が自分を呼ぶときの名前。 | ミは みんなの ミ |
| Fa(ファ) | Far, a long, long way to run (ファー ア ロング ロング ウェイ トゥ ラン) | Far=遠い。走っていく遥か遠い道のり。 | ファは ファイトの ファ |
| Sol(ソ) | Sew, a needle pulling thread (ソー ア ニードル プリング スレッド) | Sew=縫う。糸を引く裁縫の針。 | ソは あおいそら |
| La(ラ) | La, a note to follow Sew (ラ ア ノート トゥ フォロウ ソー) | La=意味を持つ単語ではなく「ソの次に続く音符」。 | ラは ラッパの ラ |
| Ti(シ) | Tea, a drink with jam and bread (ティー ア ドリンク ウィズ ジャム アンド ブレッド) | Tea=お茶・紅茶。ジャムとパンと一緒に飲む飲み物。 | シは しあわせよ |
後半の展開では、「That will bring us back to Do (oh-oh-oh)」(これでまた「ド」に戻るよ)と続き、音階が一周して再び最初の「Doe」へとループする見事な構成になっています。
「ドはドーナツ」ではなかった?英語歌詞に隠された高度な言葉遊びの秘密
1959年にブロードウェイで初演され、1965年の映画化で世界的大ヒットを記録した『サウンド・オブ・ミュージック』。作詞を手掛けたオスカー・ハマースタイン2世(Oscar Hammerstein II)は、子どもたちが音階(Do-Re-Mi-Fa-Sol-La-Ti)を自然に覚えられるよう、「音階の発音と同じ音を持つ英単語(同音異義語)」を意図的に歌詞に組み込みました。
日本語版は「ド」で始まる単語(ドーナツ)、「レ」で始まる単語(レモン)という頭文字の連想(アクロスティック)ですが、英語版は「その音そのものを表す単語」を当てはめている点が決定的に異なります。
- Doe(ド):オスの鹿(Buck / Stag)に対して、メスの鹿を指す単語。「Doe, a deer, a female deer」とあえて説明的な修飾を重ねることで、子どもの語彙力を育てる工夫が施されています。
- Ray(レ):太陽から降り注ぐ光の筋。「a drop of golden sun」という詩的で美しい情景描写が続きます。
- Me(ミ):代名詞の「私」。「自分を呼ぶときの名前」という直感的な定義が子どもの心を掴みます。
- Far(ファ):距離が遠いことを示す副詞・形容詞。「走っていくための長い道のり」と動きを連想させます。
- Sew(ソ):「縫う」という意味の動詞。発音は「ソー」であり、Sol(ソ)の響きに合致させています。
- La(ラ):英語の日常語に「La」と同音の適当な単語が存在しなかったため、「Sew(ソ)の後に続く音符だよ」と自己言及的なユーモアで乗り切っています。
- Tea(ティ / シ):紅茶やお茶。イギリス・オーストリアの食文化を感じさせる「ジャムとパンのお供」として登場します。
ペギー葉山が挑んだ奇跡の超訳|なぜ直訳ではなく「食べ物」を選んだのか?
日本で親しまれている『ドレミの歌』は、歌手のペギー葉山氏(1933〜2017)が訳詞を担当しました。1962年にNHKの音楽番組『みんなのうた』で放送されたことを契機に、小学校の音楽教科書にも採用され、日本全国のスタンダードナンバーとなった歴史があります。
ペギー葉山氏が生前のインタビューや自著で明かした証言によると、当初、訳詞の依頼を受けた際は原詩に忠実な訳を試みたといいます。しかし、「ドは牝鹿(メスジカ)」「ソはお裁縫」と直訳しても、当時の日本の子どもたちにはピンとこず、情景が全く浮かばないという大きな壁にぶつかりました。
締め切りが迫る中、日比谷の喫茶店で頭を抱えていたペギー氏は、テーブルに運ばれてきたドーナツとレモンティーを見て閃いたと述懐しています。「子どもの大好きな食べ物や、日常の身近な風景を歌詞にすればいい」と直感を信じ、直訳を完全に捨てて「ドはドーナツ」「レはレモン」というオリジナルの詞を一気に書き上げました。
さらに注目すべきは「ソ」と「シ」の処理です。「ソ」は食べ物ではなく「青い空」という広大な情景を提示し、「シ」に至っては「幸せよ」という感情の充足で締めくくられています。これにより、単なる単語の羅列を超えて「歌うこと自体の喜び」を子どもたちに伝える不朽の超訳が完成したのです。
【実態検証】英語学習者がつまずきやすい発音の罠と現場のリアルな声
『ドレミの歌』の英語歌詞は、初級の英会話学習や発音トレーニングの教材としても非常に人気があります。しかし、教育現場やSNSのリアルな反応を分析すると、日本人がカタカナ英語の感覚のまま歌おうとした際に3つの明確な発音の壁が存在することが浮き彫りになっています。
- 罠1:「Doe」と「Far」の母音の深さ:「ド」を日本語の平たい感覚で発音すると英語のリズムに乗り遅れます。「Doe」は二重母音の [doʊ](ドゥオに近い)であり、「Far」は [fɑːr] としっかり喉の奥を開いて「r」の余韻を残す必要があります。
- 罠2:子音のリンキング(音の連結):「Doe, a deer, a female deer」は、単語を1つずつ区切るのではなく、「ドゥ・ア・ディァ・ア・フィーメイル・ディァ」と滑らかに音を繋ぐ(リンキングさせる)ことがリズムキープの必須条件です。
- 罠3:「Sew」の発音の誤解:綴りから「スウ」と誤読されがちですが、実際の発音は [soʊ](ソー)です。映画の劇中でもジュリー・アンドリュースは明確に「ソー」と発音しています。
大手英会話スクールの講師アンケートやSNS上の学習者の声を見ても、「カタカナの歌詞カードを見ながら歌うと舌が回らなくなるが、映画の音声に重ねてシャドーイングすると英語特有の弱拍・強拍のリズムが一気に体感できる」という報告が数多く寄せられています。
一般に知られていない盲点|「シ」が英語圏で「Ti(ティー)」と呼ばれる理由
日本の音楽教育を受けた多くの人が疑問に感じるのが、「なぜドレミファソラシの『シ』が英語では『Ti(ティー)』になっているのか?」という点です。
もともとドレミの階名表記は、11世紀のイタリアの修道士ギドー・ダレッツォが考案した聖歌の歌詞の頭文字(Ut-Re-Mi-Fa-Sol-La)に由来します。その後、第7音として「Sancte Iohannes」の頭文字から「Si(スィ)」が追加され、ヨーロッパ全土に定着しました。
しかし、19世紀のイギリスの音楽教育者サラ・アン・グラヴァー(Sarah Ann Glover)が画期的な教育システム「トニック・ソルファ法」を確立した際、大きな問題が生じました。音階の頭文字をアルファベット1文字で表記しようとしたところ、「Sol(ソ)」と「Si(シ)」がどちらも『S』で重複してしまったのです。
そこでグラヴァーは、重複を避けるために第7音の「Si」を「Ti(ティ)」へと改変しました。このトニック・ソルファ法が英語圏全体に普及したため、ミュージカル『サウンド・オブ・ミュージック』が作られた20世紀半ばには、英語圏で音階の最後といえば「Ti」であることが常識となっていました。これが、劇中で「Tea, a drink with jam and bread」と歌われる論理的背景です。
【プロの結論】言語の壁を越える翻訳文化と英語学習への活かし方
『ドレミの歌』の日米の比較から学べる最も重要な教訓は、「優れた翻訳とは、単なる文字の置き換えではなく、文化的な体験の移植である」という点です。
英語原曲のロジャース&ハマースタインは「同音異義語を用いた知的好奇心と言葉のゲーム」を設計し、ペギー葉山氏は「日本の子どもが日常で触れる温かい生活感と情緒」を構築しました。両者はアプローチこそ正反対ですが、「歌を通じて子どもたちに音楽の楽しさを伝える」という目的において、いずれも最高峰の達成を成し遂げています。
英語学習としてこの楽曲を活用する場合、単に「英語歌詞を日本語に訳す」のではなく、英語の音節(シラブル)とリズム、ライム(韻)の美しさを身体で味わうアプローチが最も効果的です。
【ドレミ の 歌 英語】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:英語歌詞の「Doe」は日常会話でも使われる単語ですか?
A1:はい。狩猟文化や野生動物の話題、自然科学の分野で日常的に使用されます。オスの鹿は「Buck」または「Stag」、子鹿は「Fawn」と呼ばれ、メスの鹿を明確に区別する際に「Doe」が使われます。ウサギやヤギのメスを指す際にも用いられることがあります。
Q2:映画『サウンド・オブ・ミュージック』のサントラ版と舞台版で歌詞に違いはありますか?
A2:基本的な歌詞の骨格(Doe, Ray, Me...)は全く同じです。ただし、劇中での歌唱順序やキャラクター間の掛け合いパートの割り振り、曲の合間に入るセリフのタイミングには、ミュージカル舞台版と映画版で細かな演出上の差異が存在します。
Q3:子どものフォニックス(発音規則)学習にこの歌を使うメリットは何ですか?
A3:母音の正確な伸ばし方や、語尾の子音を無理に発音しすぎない英語特有の「音の強弱」を身につけるのに最適です。特に「Ray」の二重母音や「Thread」「Bread」の脚韻(ライム)など、英語のリズム感覚を歌いながら自然に体得できる点が最大のメリットです。
まとめ:名曲『Do-Re-Mi』が拓く英語の響きとリズムの世界
『ドレミの歌』の英語原曲は、「ド=ドーナツ」という親しみやすい日本語版とは異なり、英語の響きと意味が美しく連動した高度な言葉遊びの傑作です。その違いを知ることは、単なるトリビアにとどまらず、英語という言語が持つ特有のリズムや表現文化を深く理解する素晴らしい足がかりとなります。
まずは原曲のカタカナ発音を意識しながら、ジュリー・アンドリュースの澄んだ歌声に合わせて声に出してみてください。耳慣れたメロディの裏側に隠された、英語本来のダイナミックな響きと楽しさを再発見できるはずです。 (出典: ドレミ の 歌 英語(Yahoo!ニュース))